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平成作文~未来へ

作文応募期間:平成30年3月15日~4月30日

病院の鏡が映す平成時代

友人の入院を見舞った後に洗面所に寄り、私も同じこの病院に入院していたあの日の事を思い出していた。雲仙普賢岳で火砕流が発生した平成3年6月3日のことだ。あの日、病院のベッドの枕元に置かれたテレビに向かって、大声で「逃げろ、逃げろ」と叫ぶ人がいた。この声に何事かと大部屋の患者たちが集まってきた。モクモクと化け物のように大きくなって襲ってくる火砕流から逃げる人に、みんなも「早く、早く逃げろ」と叫んでいた。痔の手術を終え、明日には必ず退院できるという確信を持った、元気な病人たちばかりだった。そのためか、病院もテレビの持ち込みを禁止しなかったのだろう。そういえば、この頃から携帯電話も普及し始めていて、米屋さんを経営する社長さんらしい人が、時間も構わず大きな声で会社の様子を聞いたり、仕事の指図をしたりしていたことも思い出される。今日来てみると、建物は同じなのに院内の雰囲気は明るく、全く違う病院のようになっていた。これは、きびきびとして弾けるような笑顔で接していた、若い看護師さんからの印象ばかりではない。どのベッドにもテレビはなく、灰皿も置かれていなかった。ましてや携帯電話で大きな声で話す人もいない。他を思いやる洗練された時代がこの病院の中にもあった。平成の時代は、前の時代のくすんだあか抜けない染みのようなものを拭い、洗面台の磨かれた鏡のように、キラキラと輝かせた時代だと思う。

岐阜県北方町 大野博司さん 77歳 流行・世相

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