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平成作文~未来へ

作文応募期間:平成30年6月15日~7月30日

優しい娘になった

車線のない小さな交差点で、信号が変わりブレーキを踏んだ。右側にいた白杖の人が、横断歩道を渡ろうとしていた。完全に車が止まったかどうか確かめているようで、なかなか渡ろうとしない。そのとき、私の後ろに止まった車から若い女性が飛び出してきて、白杖の人の手を引き横断歩道を渡らせた。彼女は私に気付いた様子もなく、微笑みながら頭を下げて車に戻っていった。20年も前から、よく知っている近所の娘さんだった。あの頃、土地改良事業の一環として、農地所有者は、所有面積に応じて労役を提供し、田でナスの栽培出荷をすることが決められていた。勤めのあるものは、土・日曜日のほかに朝早く作業に出て、割り当て時間を消化した。旦那さんが単身赴任をする家は、代わりに奥さんが出て、ノルマを果たした。その中に、小さな子を連れて、作業をするお母さんがいた。突然「わー」と、女の子の泣く声がして振り向いた。ナスの植えられた畝と畝の間を渡ろうとして足を滑らせ、大きく足を開いたまま泣いていた。「ウウン気を付けなアカンよ。横に割れたらどうするの。お股のヒビは、アンバイヨウ割れなアカンでね」女の子に言ったことを、初めのうちは理解できないでいた周りの人たちが、しばらくしてドッと笑った。「そんな横着なことをいって、女番長にでもなったらどうするの」誰かが言った。女の子は母親の胸にすがり、涙をためた目で私を見つめていた。「お前の将来は、スケバンだな」指さして言う私からクルッと顔を背け、母親の胸に埋めてしまった。白杖の人の手を引いたのは、あのときの女の子だった。

岐阜県北方町 大野博司さん 77歳 楽しみ友人・仲間流行・世相心身の変化出会い

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