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平成作文~未来へ

作文応募期間:平成30年8月15日~9月30日

定年後の日々 

定年で職場を去る日、同僚が花束を渡してくれた。ようやく勤め上げた安堵の気持ちに混じって、やるせない無念な思いがこみ上げてきたのを覚えている。「社会に貢献をすることができる」というのが職場を選んだ理由だった。以来、それを率先し、困難な仕事もやり遂げたという自負がある。けれど、これが全く評価されず、職階が得られなかった。かつて同僚だった自分よりも若い女性管理職の元で働くことになった時は、さすがに転職を考え職安に通った。ところが、今の給料を維持し正規に雇ってくれるところなど、どこもなかった。資格があればなんとかなるかと、宅地建物取引主任者の資格を得た。さあ独立だと、知り合いの不動産屋に相談すると、売買物件を事務所で待っていても商いはできない。まずは、これを探してくることが必要だという。私にはできないと思った。やはり己の能力なんてこんなもの、評価は間違っていなかったと、以来自分を納得させて過した。そしてこの日、鬱屈した毎日を一新し、新しい生き方をしようと決めた。周りの人の笑顔を、自分の中に取り込んで楽しむのだ。大したことはしない。すれ違う見知らぬ人に、大きな声で挨拶をする。笑顔で挨拶が返ってくる。ゴミ集積所で手を伸ばし、袋を取って手助けをする。ありがとうという声を聞くと、華やいだ楽しい気分になってくる。杖に頼り、エスカレーターや階段を上るのを躊躇する人がいる。今は赤地にハートと十字のヘルプタッグを付けた人もいる。これを見つけたなら手助けをしようと、バスに乗って人の集まる駅まで出かけることもある。つり革をつかんでいると、若い女性が立ち上がって席を譲ってくれた。お礼を言い、笑顔を向けると、彼女も微笑み返してくれた。逆さまだった。それでもこの日は、1日を楽しい気分で過ごすことができた。

岐阜県北方町 大野博司さん 78歳 喜び就職・転職

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