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平成作文~未来へ

作文応募期間:平成30年8月15日~9月30日

希望退職

「もう辞めた」。夕食後に、絶対に言ってはいけない言葉が無意識のうちに出てしまった。希望退職者の募集が始まり、私の回りも安全ではなくなりつつあったが、妻に心配をさせてはいけないと思い、絶対に口には出さないつもりでいたが、いつも頭の中は希望退職のことでいっぱいで、ふと気が緩んだ時に口から出てしまった。「何のこと」と、妻は、その場にふさわしくない言葉に反応した。しまったと思ったが、「何でもない」ととぼけてその場を取り繕おうとした。しかし妻は、私のつぶやきで全てを理解してしまっていた。最近、自分でも鬼のような顔をして会社から帰ってくることが多かったから、社内でずいぶんと困難な状況に置かれていることを、理解していたようである。「いいわよ。好きにして」と、ひと言だけ食事をしながら明るい声でつぶやいた。子どもたちも成人し独立して自立した生活を送っているから、いつ会社を辞めても良いという意味であることはすぐに理解できた。その晩、私は一睡もせずに考え続けた。そして、翌日、出社すると同時に辞表を出して帰ってきた。妻は、「辞めて来たの」と聞いてきた。私は「うん」とだけ返事をした。1週間は呆けたように眠り、1日中ボーッとして暮らした。妻は何も言わず、いつものように食事を作り、買い物をし、洗濯など家事をこなしていた。30年以上も勤めていた会社を突然辞め、どうしたら良いか計画など無かった。何をして生活していこうか不安に押しつぶされそうになったが、就職活動を始めた。幸いその後、再就職し、いろいろな体験をした結果、今ではあの退職は正しい選択だったと思っている。

愛知県尾張旭市 浅野憲治さん 70歳 家族・親族就職・転職

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