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平成作文~未来へ

作文応募期間:平成31年1月15日~平成31年2月28日

栗の復活

東日本大震災の傷跡が消えないまま、2度目の秋を迎えた。暗い気持ちを少しでも和ませるのは、たくさんの実をつける栗の木。妻の子どもの頃、近所の庭から落ちてきたのを拾って叱られた記憶があり、いつかわが家に植えて収穫をする夢が叶ったと喜んでいた。それから数年が経ち、近所におすそ分けをしてもまだ余るほどになっていた。正月のきんとんはほぼ栗だらけ、お重は黄金色が幅をきかせた。ところが、その年はまるで様子がおかしい。固く閉じたまま開かず、茶色が黒ずんでポトポトと落ち始めたのだ。見たこともない虫が集団で、枯れかけた葉や小枝を覆うようになり、図鑑やネットで調べて手強い緊急事態だと知った。駆除のため薬剤を散布し虫と戦うが、シャツの上からでも刺され、腕は赤く腫れあがった。限界だと、思い切って小枝を上から順にノコギリで切るが、幹の中まで黒ずんだ症状は、とても再生が叶わないと泣く泣くあきらめた。しばらくはその始末に明け暮れ、楽しいはずの秋の収穫は無念なものになった。が、その翌年の春。庭の大きな鉢の中に、何やら見覚えのある細長い葉が数枚、若草色を風になびかせているではないか。形はどう見ても栗、半信半疑で元を辿ると、艶のある茶色の実が割れて枝が葉を出していた。丁寧に他の鉢に移し替え、頃合いを見計らって、かつての親栗の横に植えた。「桃栗3年」とはいうものの、まだ以前にはほど遠く、困難を乗り越え、期待の持てる若栗に成長、ようやく昨年幼い実を付け、やっぱりその子だと小躍りをした。初夏には白い穂を付け、やがて実となり、秋には再び妻の希望を叶えてくれるのだと今日も見守っている。

石川県金沢市 工藤文雄さん 72歳 季節趣味・レジャー

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